国語・古典(神奈川県公立高校入試問題)
次の文章を読んで、あとの各問いに答えなさい。
ある年、疫病はやりて、諸人悩みけるまま、家々に山伏を頼み、疫病よけの祈(き)?(たう)をして、札守りをもらひ、門々に張りて、疫神を防ぎけり。それを1 さるしはき男、うらやましく思ひけれど、もとより祈?を頼まば礼銀やらではすむまいが、守りは欲しし礼銀は惜しし。いかがせんと案じけるが、所詮、人の門にをしたる守りを盗み取り、我が家に張りても2 同じことならんと、その夜、ひそかに人の家にをしてある札をめくり取り、我が戸に張りておきたりしに、その明くる朝、隣の人、ふとかの戸を見れば、「貸店あり」と、張り紙してあり。3 不思議に思ひ、急ぎ亭主をたたき起こし、「あまりこなたが朝寝するゆゑ、さだめて子どものいたづらならん。戸に書き付けをしておいたわ」と言へば、亭主あくびしながら、「それは我らが張りたる疫病の守りぢや」と言ふ。「いやいや、守りならば、貸店と書くはずはあるまい」と、ひきまくりて見せれば、かの男( )ながら、抜からぬ顔にて、「いやいや、それにはこころがある。疫神がこれを見たらば、この家には主がないと思ひ、入るまいとて、わざと、貸店ありと書きました」と。 (「軽口福徳利」から)
(注)疫病=流行病。病をもたらす疫神がその家に入るのを防げば、病にかからないと信じられていた。
山伏=山野で修行する僧。祈?=神仏に祈ること。札守り=神仏の霊がこもるお守りの札。
貸店=貸家。家の戸口に「貸店」の張り紙をすることで、借り手をさがした。
ア 線1「さるしはき男」の意味として最も適するものを次の中から一つ選び、その番号を書きなさい。
1 ある乱暴な男が 2 あるけちな男が 3 ある正直な男が 4 あるおろかな男が
イ 線2「同じことならん」とあるが、これはどのような意味か。最も適するものを次の中から一つ選び、その番号を書きなさい。
1 お札を張っても張らなくても、疫神が来るのはさけられない。 2 他人の家の戸に張ってあったお札でも、その効力は変わらない。
3 礼銀を払っても払わなくても、山伏のお札は手に入れられる。 4 どんなお札だろうと、何が書いてあるのか疫神には分からない。
ウ 線3「不思議に思ひ」とあるが、誰が何を不思議に思ったのか。最も適するものを次の中から一つ選び、その番号を書きなさい。
1 隣の人が、主のいる家に「貸店」の張り紙があることを。 2 疫神が、どの家にも同じようなお札が張ってあることを。
3 家の主が、昨夜張ったお札とは違う張り紙があることを。 4 子どもたちが、「貸店」の張り紙が裏返っていることを。
エ 本文中の( )に入れる語句として最も適するものを次の中から一つ選び、その番号を書きなさい。
1 胸をなでおろし 2 腕をふるひ 3 腰をかがめ 4 肝をつぶし
オ この話のおもしろさはどのようなところにあるのか。最も適するものを次の中から一つ選び、その番号を書きなさい。
1 疫神をお札で防げると思っていないのだから、どんなお札を張っても結局同じことだ、と男が言い逃れたところ。
2 疫神には自分の住む所があるのだから、「貸店」の張り紙に興味を持ったりはしない、と男が言い逃れたところ。
3 人の住まぬ貸家に疫神が入り込むことはないから、「貸店」の張り紙で疫病が防げる、と男が言い逃れたところ。
4 子どものいたずら書きが張ってあるような家なら、疫神もここが空き家とは思わない、と男が言い逃れたところ。